《コーダあいのうた》作品情報
原題:CODA
公開年:2021年
製作国:アメリカ・フランス・カナダ
上映時間:111分
ジャンル:ドラマ・コメディ
監督:シアン・ヘダー
評価:84
《コーダあいのうた》主要キャスト
ルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)
高校生。家族の中で唯一耳が聞こえる。
フランク・ロッシ(トロイ・コッツァー)
ルビーの父。
レオ・ロッシ(ダニエル・デュラント)
ルビーの兄。
ジャッキー・ロッシー(アーリーマトリン)
ルビーの母。
ベルナルド・ヴィラロボス/V先生(エウヘニオ・デルベス)
ルビーの高校の合唱クラブの顧問。
マイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)
ルビーの同級生。ルビーと同じく合唱クラブに入る。
《コーダあいのうた》あらすじ
ろうあ者の家族の中で一人耳が聞こえるルビーは、いつも家族の通訳をしていた。朝3時に起きて父と兄と一緒に漁に出る。帰ってからすぐに学校へ。授業中居眠りすることもあるし、同級生からは魚臭いと言われることもある。そんな周囲の目を気にするそぶりもなく、ルビーは毎日家族の為に精一杯生きてきた。そんなある日、転機が訪れる。気になっていたマイルズが合唱クラブに入るのをみて、とっさにルビーも合唱クラブへ入ることに。しかし、今まで一度も人前で歌ったことがない。いつも聞いているのは耳の聞こえない家族のみ。自分の歌が今いのか下手なのかも分からない。人前で話すことに気後れするルビーだったが、彼女の歌声を聞いた顧問の先生は絶句する。
《コーダあいのうた》感想
ルビーと家族
ルビーの家族は、ルビーが生まれるまで世間とのやり取りに困難を極めただろう。他の漁師仲間とうまく意思疎通ができず、あの父親の事だからたびたびトラブルが起きたと思う。しかも兄も血の気が多くすぐに手が出る。
そこへ耳の聞こえるルビーが誕生した。ルビーが学校へ行くまではろうあ者の家族の中で育ったので、うまく言葉が喋れなかったようだ。しかし、学校に行くようになってからはすぐにしゃべれるようになったことだろう。それから、ルビーが家族の通訳をするようになった。この家族はルビーを中心にして回っている。
ルビーも自分がいなければ、家族はより一層社会から孤立してしまうと思っているのだ。ただでさえ地域社会から浮いている家族なのだから、これ以上阻害されるのも辛いだろう。
海で捕ってきた魚の交渉もいつも足元を見られているようだ。自分たち家族が世間からどうゆう風に見られているのかを一番知っているのはルビーだ。だから、足元を見られるのも我慢できない。父が交渉しているところに割り込んで自分が交渉しようとする。しかし、父にもプライドがあるので、娘に交渉の場を奪われるのも腹が立つのだろう。
ルビーと母親
ルビーが母に、「私が生まれたとき健常者だったと分かってどう思った?」と尋ねたとき、母親はどうこたえるだろうと考えた。正直に答えるかそれとも娘を傷つけまいと嘘をつのかと。
この母親は娘に正直だった。娘に対して自分の本当の気持ちをさらけ出している。今までもそうなのだろう。変に気を使ってややこしくすることはしない。自分の本心で娘に向き合っているのだ。
母親は言う。「ろうあ者の自分に、健常者の娘をうまく育てることが出来るのだろうか」という不安から、「生まれてくる子は同じろうあ者であってほしいと願っていた」と。
そして「だからうまく育てることが出来なかったのだと」それに対してのルビーの返しが気が利いている。「うまく育たなかったのはそのせいではない」
二人の関係がいい。今まで喧嘩も多かっただろう。意思の疎通も思い通りにいかず、お互いもどかしい思いをしたことも数知れないだろう。しかし、ルビーをみれば母親の育て方が決して間違っていなかったことがよくわかる。
ルビーと彼氏
ルビーの家へ歌の練習をしに訪れた際、両親のSEXの声が思いっきり聞こえてくる。医者からSEX禁止と通告されているにも関わらずにだ。そして、彼氏が翌日そのことをクラスメートに話してしまう。それはいくら何でもひどいだろう。あまりにも衝撃的な体験だとは言え、女の子の家に行って彼女の知られたくないことを他人話すのは最低だ。
それでも、ルビーは嫌いになりたくても素直に謝ってくる彼に対して、初めのうちは無視、そのうち邪険に扱いだし、とうとう何度も許しを請う彼に対して根負けする。やっぱり、彼のことが大好きなのだ。なんといっても一目ぼれした相手なのだから。
ルビーと兄
お互い悪口を言い合う二人だが、それだけ仲がいい。一番ルビーの将来のことを心配しているのが兄だ。
このまま自分たちの通訳として一生ルビーを家に縛っておくには可哀想すぎると感じているのだろう。将来大きな可能性を秘めているルビーを、自分たち家族の為に犠牲にするのは耐えられないのだろう。真っ先にルビーが大学に行くことを分かってくれたのもこの兄だ。
大学受験
遅れてきたルビーに対して、試験官たちも大して期待していないようだ。服装は普段着だし、遅刻してくるし、試験官から見れば受かろうとする気はあるのかと疑ってしまうだろう。
その上譜面も忘れた来てしまったという始末。アカペラで歌うしかないとなったその時、先生が急遽臨時の伴奏にはいてくれることになる。しかも、顧問のV先生が伴奏に入ってくれた。
慌てて気持ちが浮ついた状態で歌い始めた為、本来のルビーの力が出ていないと気づいたV先生は、伴奏をわざと間違える。ナイスな機転。そして再度仕切り直し。
遅刻をしたが、譜面を忘れたことが幸いして、V先生が伴奏してくれたおかげで、いい方向へ動き出した。しかも2階の客席には両親と兄の姿が。ルビーは手話を交えて、心のこもった歌声を届けとばかりに審査員の先生ではなく家族へと向けて熱唱する。
《コーダあいのうた》演出
学校の発表会。ルビーと彼のデュエットの途中、突然無音になる。
父と母そして兄から、今の状況がどう見えているのか聞こえているのかを見せてくれているのだ。
当然のことだが、音のない世界は主な情報が視覚から入ってくることになる。そして、今ルビーの歌を聞いて、周囲にたのしそうな人、感動している人、涙を流している人が大勢いることを知る。
この時初めて娘のルビーには、歌で人々に感動を与える才能があるのだと知る。一度もルビーの声と歌を聞いたことのない家族は、いくら歌がうまいと言われてもそれがどれほどのものかと疑っていたのだろう。しかし、今周囲の人々の表情を見れば、ルビーの歌声が本物だと実感できたことだろう。
《コーダあいのうた》まとめ
ろうあ者の家族に一人健常者として育ってきたルビー。周囲の目を気にしながらも、卑屈になることもなく肩ひじ張ることもなく普通の女子高生とは少し違った生活環境だが、しっかり生きている。
今作品はエミリア・ジョーンズの演技力と歌唱力で成り立っている。彼女の演技が自然で、耳の聞こえない両親の通訳をする娘が自然に感じられる。マイルズとのちょっとしたデートも高校生らしく初々しい。
「ポスト エマ・ワトソン」と言われているエミリア・ジョーンズはこれからも様々な作品に登場し見る機会が増えるだろう。