作品情報
原題:英雄
公開年:2002年
製作国:中国
上映時間:99分
監督:張芸謀(チャン・イーモウ)
評価:72
《HERO/英雄》主要キャスト
無名(ウーミン):ジェット・リー
『十歩必殺』の技を10年の歳月をかけて編み出した、地方の官吏。
残剣(ツァンジェン):トニー・レオン
書から剣を極めた趙の暗殺者。折れた剣(身幅が広く、重量がある)を使いこなす。
飛雪とは恋人関係にある。
飛雪(フェイシエ):マギー・チャン
父は趙の将軍であったが、秦に殺される。残剣と共に秦の大王を暗殺しようとする。
如月(ルーユエ):チャン・ツィイー
残剣に仕える侍女。二対の鴛鴦鉞を持っている。密かに残剣を慕っている。
長天(チャンコン):ドニー・イェン
義の心を何よりも重んじる、槍の使い手。
秦王(のちの始皇帝):チェン・タオミン
中国全土を統一する野望に燃え、敵国を次々と滅ぼしていく。
《HERO/英雄》あらすじ
一地方の官吏、無名(ウーミン)は10歩の距離まで近づければどんな敵であろうと倒すことが出来る。中国最強の刺客「残剣」、「飛雪」、「長空」の3名を討ち果たした無名は、その褒賞として秦の大王への謁見を許される。通常大王との謁見は100歩までの距離だが、刺客を倒した褒賞として10歩まで近づくことを許される。刺客を倒した経緯を話す無明に対して大王の発した言葉は・・・。
《HERO/英雄》演出
重力を無視した闘い
空を飛んだり、水の上を跳ねたりと重力を無視した闘いはファンタジーの世界だ。
ありえない方向から飛んで来る敵に対して、こちらもありえない飛翔力を身に着けている。
如月はロケットのように空から降ってきた。
幻想的な世界観を演出する分にはありなのだろうが、真剣な戦いを期待していると肩透かしを食らう。
場面ごとに切り替わる統一された色調
無名が大王に説明する情景は鮮やかな原色で切り替わる。
偽りの赤、真実かと思いきやまた嘘の青。次にようやく真実の白、そして3年前の大王暗殺未遂の緑と景色も含めてそれぞれの色、一色で染まっている。
綺麗でわかりやすい。しかも風景も空気も建物もそこに存在するすべてが同じ色に統一されている。
《HERO/英雄》キャラ
無明
秦の大王を倒せるのは十歩必殺の自分の技しかないと、無名は三大刺客の一人長天との一騎打ちに挑む。
しかし三大刺客を殺したことにして秦の大王の10歩のそばまで近づく作戦だ。大王を倒せるのはこの方法しかないと思い、大王に謁見するのだが次第に残剣から託された思いに気付く。
そして自分の命と引き換えに、大王に伝えること、伝えなければならないことを知った無明は自らの命を犠牲にして大王暗殺を断念し残剣の意思を受け継ぐ決意をする。
なんて非情な、最後の無数の矢が無明に降り注ぎ、後ろの壁には人型の部分だけ矢が刺さっていない。このとき無明の全身は矢で埋め尽くされただろう。あえて矢が刺さった状態を見せないことでより非情さが伝わる。
無明の技であればあれくらいの矢は振り払えただろうが、あれだけの兵士を相手にしては生き残れないだろう。自分の命を犠牲にして大王に残剣の思いを伝えることに満足してあえて抵抗せず自らの命を差し出したのだろう。
矢が刺さっていない人型、そしてそのあとの無名が葬送の儀のように運ばれていく様が胸に染みる。
残剣
3年前の大王と相まみえたとき、大王の思いを知る。その時から大王を殺すことはこれからの世に利する所ではないと強く思うようになる。
無明の技と彼の作戦であれば大王暗殺が可能だが、無明が大王を暗殺しないと、自分の思いを分かってくれると思い送り出したのだろうか。
残剣は自分の命と引き換えに飛雪の大王暗殺の思いを断ち切らせる。なんて切ない。愛する人に自分を殺させて自分がいなくなってしまう。そのあとに一人残された飛雪はどうなるのだろうと想像しなかったのだろうか。
飛雪
愛する人を殺し、一人になってしまった飛雪。父のかたき討ちの為に秦の大王暗殺に執念を燃やすが、残剣が秦の大王を暗殺しないと決断したことが怒りとなって刃を向けてしまう。
自分より技量が上回る残剣だから飛雪が真剣に切り付けても相手は軽くかわしてくるだろうと思っていたが、意に反して残剣は自ら飛雪の剣に向かっていく。
残剣の行動を理解できない飛雪だが次第に彼の自らを犠牲にして伝えたかったこと、いつまでも己の復讐心だけで生き続けていくことの虚しさを知ったのだろう。
驚きと後悔に襲われる飛雪は最後には残剣を貫いている剣を自身にも刺して最後を遂げる。このシーンが愛する人を自らが死に追いやった後悔と、共にあの世までも一緒に居たいという気持ちとがないまぜになった結果だろう。
長空
無名に秦の大王暗殺の使命を託すため、自身を死んだことにした長空だが、いつ無名と謀ったのだろうか。無名との手合わせ中に以心伝心でもしたのだろうか。あの時々出た来る想像の中の戦の際だろうか。しかし、残剣と言いこの長空といい頭の中での戦いで相手の技量を計るとは達人の域だ。
如月
8歳のころから残剣のそばに仕え、次第に慕うようになった如月。
最初の緑のシーンでは残剣との仲と飛雪に見せつけるいやな女だったが、本当は一途に残剣を慕うだけのはかない女性だった。残剣が飛雪と共に死んでしまい一人残された彼女は可哀想な女性だ。
秦の大王
自分の重臣たちでさえ分かっていないことを、敵国の刺客たちが理解していることに驚きと感動を覚える。そして、10歩のところまで近づいた無名を殺さなければならない事に、苦渋の決断を下す。
そして、亡くなった無名を丁重に弔えと命じた秦の大王の忸怩たる思いが伝わってくる。
《HERO/英雄》まとめ
この物語には悪い奴が登場しない。秦が覇者となる途上の時代、刺客が大王暗殺を狙っているにもかかわらず悪役が出てこない。普通この手の作品は、悪党の陣営と主人公の陣営が壮絶な戦いを繰り広げるはずだが、この作品はそれぞれの刺客たちがさまざまな思いを胸に生きている。そしてラストには一人の男の生き様が完結する。