予想とはだいぶ違った。
もっと大人の男女のラブストーリーを想像していたのだが。
ウィルの最後は予想外だった。ルーがウィルを心変わりさせて最後はハッピーエンドで終わるものと思っていた。ロマンティックコメディとなっているけれど尊厳死という重いテーマも併せ持つ作品。
尊厳死を尊重する考え方もあるが、自分は受け入れなれない考えだ。作品自体は非常に面白かった。新しいことに挑戦しようとしないルー、事故により閉じこもった性格になったウィル、この二人の出会いがお互いを変えていく。
作品情報
原題:Me Before You
公開年:2016
製作国:アメリカ、イギリス
上映時間:110分
ジャンル:ラブストーリー/ヒューマンドラマ
監督:テア・シャーロック
評価:85
主要キャスト
ルイーザ(ルー)・クラーク (エミリア・クラーク)
イギリスの田舎町に住む26歳の女性。失業中の父に代わり家族を支えてきたがウエイトレスとして働いていた店が閉店、失業する。そして新しい仕事は大富豪の介護をすることになる。
ウィル・トレイナー (サム・クラフリン)
元実業家で古城に暮らす大富豪。2年前、オートバイにはねられ脊髄損傷の車椅子生活を余儀なくされる。ルーと出会うまで心を閉ざしていたが徐々に穏やかさを取り戻していく。
カミーラ・トレイナー (ジャネット・マクティア)
ウィルの母。ウィルの尊厳死に反対し何とか心変わりしてもらおうとルーに賭けている。
スティーブン・トレイナー (チャールズ・ダンス)
ウィルの父。ウィルの尊厳死を尊重している。そのためカミーラとはウィルのことで始終対立している。
バーナード・クラーク (ブレンダン・コイル)
ルーの父。失業中。ルーに一家を支えてもらっている。
ネイサン (スティーブン・ビーコック)
ウィルの担当看護師。長くウィルを看病しているためウィルの体調や気持ちの変化に敏感。尊厳死を心変わりしてほしいと望んでいる。
パトリック (マシュー・ルイス)
ルーの恋人。自分本位で、ルーは自分の事しか見ていないと思い込んでいたが、ウィルの存在によって焦り始める。
カトリーナ(トリーナ)・クラーク (ジェナ・コールマン)
ルーの妹。一児のシングルマザー。将来の為に大学に復学しようと決心する。
ウィルの決断
ウィルはルーのことを本当に愛してしまったのだ。しかし一生、ルーに触れることも抱きしめることもできない自分がもどかしくて、これほど辛い気持ちを抱いたままこれから先生きていくことに絶望感しかないことに終止符を打ちたかったのだ。
しかし、選択肢はそれしかなかったのだろうか。今の状況からこの先を想像すると絶望しか見えないかもしれない。しかし、生きていさえすれば何が起こるか分からない。ルーと出会ったのもそうだし、また別の人との出会があるかもしれない。
ウィルは諦めが早すぎるのではないか。リハビリを続けていれば奇跡が起きるかもしれない。
医療技術も日々進化しているし、ITを駆使した介助技術もどんどん進んでいくだろう。
事故前のウィルが何もかも出来過ぎたのだ。頭もよくスポーツ万能で、仕事でも成功しルックスも非の打ちどころのない。そんな青年が突然脊髄損傷の車椅子生活になってしまう。動かせるのは顔だけ。あらゆることで人の手を借りなければ生きていくことが出来なくなってしまった。このあまりのギャップにウィルの心は耐えきれなくなってしまったのだろう。
突然の悲劇に耐えられるひとと、耐えられない人の違いはどこにあるのだろうか。乗り越えられる人と乗り越えられない人の差はどこにあるのだろうか。
過去の出来事にどのように意味づけをするか。ウィルは脊髄損傷になった自分の体ではこれから先の自分の人生、我慢の連続で死ぬまでそれに耐えられそうにないと決めつけたしまった。
ウィルはもっと別な意味づけをすることもできたのではないだろうか。脊髄損傷になったから、ルーと出会うことが出来た。何でもできたときのウィルだったら、ルーに出会っても見向きもしなかっただろう。これからの自分の人生の側にルーがいる。そんな未来を思い描いたのだろうか。ルーに触れることのできないもどかしさだけだったのだろうか。それだけではないだろう。
ウィルは自分の為にルーの可能性を消したくないと言っていた。しかし、ずっとウィルのそばにいる人生もありではないだろうか。それはルーが決めることだし、ウィルが決めることではない。ルーがずっとウィルのそばにいたいと思えばそれがルーの幸せになるのだから。
ウィルがこの世からいなくなってルーやウィルの両親の心の中に存在になることを望んだウィルだが選択肢はもっとたくさんあったはずだ。
過去の出来事にどのような意味づけをするか。そして、どういう未来を選択するか。それで人生の幸せは変わってくる。
ルー
美しい顔立ちだが、時々眉が変な風に垂れ下がる。まるでアニメのように。服装も超個性的だ。カラフルな色合いの上下だがルーの性格にピッタリはまっている。そして次第にルーが綺麗に見えたり、かわいく見えたりしてくるのだ。
あの自由奔放な性格、言いたいことを我慢せずに言う性格が気持ちいい。ウィルとレストランで食事しようとするのだが、会員でないと入店できないと拒否される。ルーは納得いかないことにはとことんしつこく食い下がるが、それでも叶わないときは相手に言葉のボディブローを一発お見舞いする。
エミリア・クラークは「ゲーム・オブ・スローンズ」のメインキャストであるデナーリス・ターガリエン役でも登場している。そして「ハン・ソロ」のハン・ロソと同じ孤児だったキーラ役でも出ている。
何故ウィルの母親はルーを選んだのか?
ウィルの介護の人を募集したところ、5名の応募がありその中からルーが選ばれた。ルーが選ばれた理由は何だろうか。
名目は介護の仕事だったが、本当のところは心を閉ざしたウィルの友達になってくれそうな人を探していたのだろう。
何でもこなすバリバリのキャリアウーマンではなく、他愛もない日常のおしゃべり相手になってくれる女性を求めていたのだと思う。それにピッタリはまったのがルーだったのだ。どう見ても頭がよさそうには見えない。でも表情豊かで考えていることがすぐに表に出るルーであればもしかしたらウィルの心を開いてくれるかもしれないと思ったのだろう。それにあわよくばウィルの計画している自死も思いとどまってくれることを願って、ルーに賭けたのではないだろか。
ルーと妹の関係
ある日ルーは、ウィルの両親が話していることを立ち聞きしてしまう。初めてウィルの考えていることを知ってショックを受けたルーは、自分の身には重すぎると辞めることも考えるのだが妹に諭されて思いとどまる。
ルーと妹の関係も面白い。ルーは何かあると、妹に相談してアドバイスをもらっている。妹は一度結婚して子供がいるシングルマザーで今まで父の代わりに姉のルーと共に家系を支えてきたが、ルーが新しい高給の就職先を見つけて大学へ行くことを決心する。なかなかしっかりした妹なのだ。ルーより将来のことを考えている妹に相談するのも頷ける。
ルーとパトリックの関係
パトリックはルーが自分にぞっこんだと思い込んでいる。
ウィルが現れるまではそうだったのあろうが、状況が大きく変わってしまった。ルーが徐々にウィルに惹かれるようになってパトリックが気付いたときは、時すでに遅し。独りよがりで、ルーの気持ちをあまり考えないパトリックだから当然と言えば当然だ。ルーの事は後回しにして、トライアスロンに夢中になっているような男だからこれを機に別れて正解だった。
まとめ
何といってもこの作品が魅力的なのはルーの存在だ。すべての感情が顔に出る。奇抜なファッションセンスの持ち主。周囲も明るくする性格。ウィルに「もいい年なのだろうと」言われていたが、まだ26歳だ。ボーイフレンドもいる。たよりない自己中心的な男だが。
そんなルーがウィルと出会うことによって、ますます魅力的に変貌していく。ウィルの半ば強制的な押し付けによってどんどん新しい世界を広げていく。ルーにはこれからもっと広い世界へと羽ばたいてもっと自分の可能性に挑戦してほしいと願ったのだろ。これがウィルの最後の願いだったのだろう。悲しく辛いラストだがルーの輝ける未来への出発のラストでもある。