作品情報
原題:Manchester by the Sea
公開年:2016年
製作国:アメリカ
上映時間:137分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ケネス・ロナーガン
評価:75
主要キャスト
リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)
物語の主人公。過去の出来事が原因で、廃人のように生きている。
兄のジョーの死をきっかけに、故郷マンチェスターへ戻り甥のパトリックの後見人に指名される。
ランディ(ミシェル・ウィリアムズ)
リーの元妻。リーの引き起こしたことがきっかけでリーと離婚。現在は再婚して子供もいる。
ジョー・チャンドラー(カイル・チャンドラー)
リーの兄。心臓の病気で死ぬ。
パトリック・チャンドラー(ルーカス・ヘッジズ)
リーの甥。ジョーの息子。リーとたびたび口論し関係はあまりよくない。現代風の若者。
リーの過去にいったい何があったのか?
故郷を離れ一人孤独に生きるリーは、自分の心を失ってしまったような抜け殻のような状態で、ただ一日一日が過ぎていくのに任せているようだ。
ただ生きているだけという感じで、時々やり場のない突然の怒りを自分でもどうすることもできないでいる。
その過去の原因となったシーンがなかなか出てこないので、いろんなことを想像してしまう。
例えば、離婚して今は一人で暮らしているとか。ちょっとこれは弱すぎか。
リーが人を殺して故郷を追われる身になったのではないかとか。
もしや奥さんを殺してしまったのではないか。
子供がいないようだしまさか一家心中しようとして自分だけ死にきれなかったとか。
それとも、火事でリー以外無くなってしまったとか考えていた時に原因が分かった。
火事だ。リーがコンビニへ酒を買いに行っている間に自宅が焼けてしまった。幸いにも奥さんは助かったが幼い3人の子供は焼死してしまった。
しかも失火の原因はリーの不注意だった。
当日深夜まで友達数人とバカ騒ぎしたあげく、奥さんにたしなめられ全員が帰った後に、リーは1階の暖炉に薪を2,3本くべた。その際炎を防ぐシールドを張らなければならないのだが、そのシールドを張った記憶がない。コンビニへ歩いて行く途中で気が付いたが、酔っていたせいもあって大丈夫だろうと引き返さなかった。おそらく火が付いた薪が暖炉から転がり出たのだろう。
警察署での茫然自失状態のリーの証言だ。
そしてこの後警官の銃を奪い自殺を計ろうとする。
酔っていたので歩いて片道20分のコンビニまで行き、戻ってみると自宅が大きな炎に包まれていた。そして大量の煙を吸い込んだ奥さんは救急車で病院へ、まもなくビニールにくるまれた変わり果てた我が子たちが運び出されてきた。
なんとも胸の詰まる悲惨な出来事だ。
この日以来、リーの心は空虚と怒りで占められる。
そして、思い出したくない故郷を離れてひっそりと生きることになる。
当然、街では火事が噂になっただろう。真実に近い噂もあれば、根も葉もない噂もあっただろう。例えばリーが故意に火をつけたとか。しかし、周囲の噂よりも子供たちとの思い出が詰まった場所にいることが耐えられず別の街へ引っ越したのだろう。
兄の訃報そして甥の後見人
リーは突然兄が亡くなって、故郷のマンチェスターへ帰らなければならなくなった。
兄を失った悲しみと甥のパトリックの後見人に指名されたリーは何とか最善の道を探そうと模索する。
しかし、あの火災事故から年月がたってもリーの心は壊れたままだ。妻のランディは再婚して子供も授かった。そして事故当時夫にひどいことを言ったことを今では後悔している。
さぞかし当初はリーを責め立てたのだろう。自分の怒りと悲しみの矛先をすべてリーへ向けたのだろう。そして、リーは妻に責められる以上に自分自身を責め続けているのだろう。
今でもリーの心は壊れたままだ。誰彼かまわず因縁をつけては暴力をふるう。
生涯自責の念を背負って生きていくのだろう。
20年、30年たって少しは心が安らぐことはあるのだろうか。
リーは根はやさしいく思いやりがある。なんとかパトリックの気持ちに沿うよう努力をするのだがどうしようもない場合もある。
リーはパトリックから彼女との二人だけの時間を作るために、彼女の母親の気を引き付けてほしいと頼まれる。初めは断ったリーだったが結局引き受けて失敗している。
《マンチェスター・バイ・ザ・シー》まとめ
リー役のケイシー・アフレックの演技がすごい。
表情、声、動作で胸の内に秘めた自責の念を表現している。
人としての感情を失ってしまった、抜け殻となった一人の男。
火災事故以来一度も笑ったことがないようだ。
奥さんは新しい人に出会って子供にも恵まれ、これから先の人生に踏み出している。
失った子供たちのことを忘れることはできないだろが、夫となった人に出会えたことが彼女の心の救いになったのだろう。
リーにも彼を理解して彼のそばにいてくれる人に巡り合えば新しい人生を歩むことが出来ると思う。